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今日のさけび

 誰かと出会って、その人のことを腑に落ちるように好きになる。「好き」という実感が、心と身体の真ん中にストンと落ちてくる。そして「出会う前から出会っていた」とか「生まれる前から会っていた」といった不思議な感覚にとらわれる。ぼくがそうだから、たぶんみんなそうだろう。みんなそうだということにして話を進めよう。既視感(デジャブ)などと呼ばれて、心理学や脳神経学では「記憶が呼び覚まされるような強い印象を与える記憶異常」などと説明されているようだが、全然説明になっていない。そもそも脳神経学などで説明できるものではないのだろう。

 昨日まで見ず知らずだった人のことを、今日は「もうこの人しかいない」というくらい疑問の余地なく好きになっている。一瞬にして「かけがいのない人」と思い定めてしまう。この理不尽なまでに不思議な情動は、自己の事後性ということからしか説明がつかないと思う。つまり「自己の手前」というべき場所があるのだ。自己の手前だから空間化できず、したがって可視化も実体化もできないために、経験的に把握するのは難しい。目の粗い経験論的な言葉には引っかからないけれど、だからといって錯覚や妄想というわけではない。それどころか、ぼくたちの生の大切な実感である。この確かな実感があるから、見ず知らずの者どうしが短時間で肉親よりも強いつながりをもち、家族をなして子どもを育て、人類を営みつづけているのである。

 はじめて会ったはずなのに、ずっと前から知っていた。この人とは生まれる前から出会っていた。こうした未来を追憶するような感覚は、自己の手前で起こっていることを、現在に貼り付いた自己が体験することによって生まれる。自己の手前だから、自己はそれを未来としてしか展開できないのだ。森崎茂さんが「内包」と呼んでいる感覚は、このようなものだと思う。それはぼくたちの生と切り離せないリアルな感覚としてある。生理学的に説明できないからといって、アルゴリズムに置き換えられないからといって、この大切な感覚を「ない」ことにしてしまってはならない。今日は時間がないのでここまで。また明日、つづきを書こう。(2019.6.23)

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