なお、この星の上に(6)

 結局、その日は昼近くまで猟をつづけたけれど、これといった成果を上げることはできなかった。武雄の強力なゴム管も、雑木林に残っている葉をいたずらに散らすばかりで、獲物に命中することはなかった。だいいち獲物らしい獲物に遭遇することさえない。これなら池や田んぼでカモでも狙ったほうがましだった。
 歩き疲れた四人は、日の当たる暖かい草原に仰向けに横たわった。空にはやわらかな光が溢れている。風が顔の上を吹き渡っていく。目を閉じていると眠気に誘われそうになる。ここは穏やかさと安らぎに満ちた光の王国だ。生命を脅かすものは何一つない。健太郎はゆっくりと息を吸い、息を吐いた。呼吸に合わせて、太陽の熱に温められた身体が少しずつ膨らんでいく気がする。そして草原のいっぱいに広がっていく。
 自分が大人になったときのことを想像してみた。まだ何十年も先のことだ。そのころには、今日が遠い昔になって、多くのことが忘れ去られているだろう。ある一日、彼はこの草原にやって来る。そして同じ場所に寝転ぶ。すると何もかもが同じ姿で甦ってくる。この草の上に寝転んで目を閉じれば、いまの自分たちの姿を目に見ることができるだろう。太陽の日差しの暖かさや、鼻先をかすめていく風の匂いを感じることができるだろう。何も失われない。すべてはこの場所、この土地とともにありつづける。
「やっぱゴム管で獲物を捕るのは無理じゃな」武雄がどこか投げやりに言った。「早いとこ免許をとって猟銃を持ちたいの」
 健太郎は静かに目をあけた。一瞬、眼球が光のなかへ砕け散っていくような錯覚にとらわれた。もう一度目を閉じると、瞼の裏側に深い闇が見えた。
「おまえ、本当に猟師になるんか」身体を起こしながらたずねた。
 武雄は仰向けになったまま答えなかった。またからかわれると思ったのかもしれない。
「新吾はどうするんかの」健太郎は同じ質問を向けた。
「おれは家を手伝う」すでに起き上がっている新吾は、迷いのない口ぶりで答えた。
「高校には行かんのか」
「行かん」
 新吾の父親は結核で、もう何年も町の病院に入っている。家は農家で、二人の兄が父親に代わって田畑を守っていた。上の兄は結婚して子どももいるから、実質的な跡取りと言っていい。学校の成績も悪くない新吾は、高校へ行こうと思えば行けるはずだった。
「そろそろ帰るかの」豊が見計らうように言った。
 誰も返事をしなかったが、みんな気持ちは昼飯のほうに向いている。やがててんでに立ち上がると、気だるいような眼差しをさまよわせた。
「見てみい」武雄が言った。「イヌワシじゃ」
四人は雲ひとつない青空に目をやった。上空を一羽の鳥が舞っているのが見えた。
「あいつがおっては、キジもノウサギも怖がって出てきよらん」武雄は手ぶらで帰るための口実を見つけたように言った。