書き下ろし小説

なお、この星の上に(10)

4  澄みきった透明な水音が森の木々のあいだを流れていく。川底の石はまだ眠りから覚めていない。静まり返った森のなかで、蜘蛛はじっと獲物がやって来るのを待っている。この時期、巣に掛かってくれる虫は少ない。苦労して張りめぐら […]

なお、この星の上に(9)

 風のない静かな夜だった。窓に引いたカーテンの向こうが明るんでいるのは、月が出ているからだろう。今夜あたりは満月かもしれない。先ほどから、庭の井戸のあたりで小さな音がしている。それが耳について、健太郎は眠ることができなか […]

なお、この星の上に(8)

 夕方の搾乳を終えて家に入ろうとすると、庭の井戸に祖母が蝋燭と水を供えていた。健太郎が牛の乳搾りを日課にしているのと同様に、彼女は毎夕、井戸に供え物をして手を合わすことを欠かすことがない。井戸には水の神さまが棲んでおられ […]

なお、この星の上に(7)

3  健太郎の一日は牛の乳搾りからはじまる。バケツに搾った生乳は金属製の容器に入れ、リヤカーで近くの集配所に運ぶ。これが毎朝の日課だった。夕食の前にも、もう一度乳搾りが待っている。休みの日でも関係ない。搾乳を怠ると、牛は […]

なお、この星の上に(6)

 結局、その日は昼近くまで猟をつづけたけれど、これといった成果を上げることはできなかった。武雄の強力なゴム管も、雑木林に残っている葉をいたずらに散らすばかりで、獲物に命中することはなかった。だいいち獲物らしい獲物に遭遇す […]

なお、この星の上に(5)

 季節が進んで彼岸花の赤も色褪せた。リンドウの紫の花が土手を飾るころになるとキノコ採りがはじまる。主役は村の年寄りだが、休みの日には大人も子どもも山に入る。そんな折に、山のなかを走りまわるジープの姿が、しばしば目撃される […]

なお、この星の上に(4)

 山の棚田を過ぎると、それまでの砂利道から土だけの道になった。まわりの木々の様子も、明るい雑木林から、植林された杉や檜の林に変わっていく。針葉樹が生い茂った林は暗く、その横を通る道までがひんやりとしている。清水が湧き出し […]

なお、この星の上に(3)

 いつのまにか竹林のところまで来ていた。そろそろウグイスが鳴きはじめるころだが、林のなかは静まり返っている。竹林の横は柿畑だった。これらの柿は出荷用で、実を採りやすいように、大人が手を伸ばせば届くくらいの高さに揃えて剪定 […]

なお、この星の上に(2)

2  農家の生垣から、馬酔花の白い花が顔を覗かせていた。庭先では梅は鮮やかなピンクの花をつけている。牛がときどき間延びした鳴き声を上げた。春休みに入ったばかりの日曜だった。四人はほとんど喋らずに、大根や白菜が植えられた畑 […]

なお、この星の上に(1)

1  イヌワシは切り立った崖の巣を飛び立った。昇ったばかりの朝日のなか、風をつかまえ、ゆっくりと旋回をはじめる。上昇気流に乗って、徐々に高度を上げていく。餌を探さなければならない。イヌワシは腹を空かせている。獲物はノウサ […]