書き下ろし小説

なお、この星の上に(22)

 勾配のきつい山道を登りきると地形が開けた。あたりはなだらかな高台になっている。畑で里芋が葉を茂らせていた。茎の長さは四人の背丈よりもずっと高く、折り重なるようにして繁る葉は、一枚一枚が豊が持ち歩いている蝙蝠傘ほどもあっ […]

なお、この星の上に(21)

 昼は各自が持ってきたものを分け合って食べた。豊は遠足のときのような弁当を作ってもらっていた。健太郎は自分で握り飯を用意した。新吾はアンパンとジャムパンで、武雄だけが手ぶらだった。 「なんも持ってくるものがなかったんか」 […]

なお、この星の上に(20)

10  木立を吹いてくる風に運ばれて水の匂いがした。川が近いのだろう。太陽の光を遮る頭上の木々の葉が、高くなった夏の日差しを受けて輝いている。 「おまえがいつまでも寝とるけん、もう日がこんなに高うなってしもうたが」大きな […]

なお、この星の上に(19)

9  異変が起こったのは、月が天頂に昇りつめ、動物たちの多くが眠りに就いたころだった。森のなかに殺気が漲った。黒い森のなかを稲妻のように伝令が走った。 「気をつけろ! 何かがやって来る」  小鳥たちは藪のなかで目を覚まし […]

なお、この星の上に(18)

 その日の夕食時、母親は電気洗濯機の話を持ち出した。近所の婦人たちと見にいったらしい。このあたりで最初の電気洗濯機を買った家というのが、多賀清美のところと聞いて、健太郎は自分のことが話題になっているわけでもないのに、心臓 […]

なお、この星の上に(17)

8  遠足が終わると、三年生は個人面談がはじまる。毎日に数人ずつ、担任と今後の進路のことを話し合うのだった。大まかには進学か就職かという選択になる。コースによって二学期からは一部の授業が分かれ、就職コースの者には実務的な […]

なお、この星の上に(16)

 遠足の残りの時間、四人は何をするでもなく雑木林のなかを気ままに歩きまわりながら、吉右衛門爺さんを探し出す計画のことなどを話し合った。なにしろ相手は吉右衛門爺さんだ。エラン爺さんのときのようなわけにはいかない。エリアをき […]

なお、この星の上に(15)

7  緑が深くなっている。早春を賑わわせた野草、フキやゼンマイ、ツクシ、ワラビなどの季節は終わり、草花は夏へ向かう準備をはじめている。小さな花の蜜を求めて、蝶たちが飛び交っている。そろそろ冬眠から目覚めたクサガメやヒキガ […]

なお、この星の上に(14)

6  霧は霊気のように森を覆っていた。黒々とした森のなかを、風は静かに吹いている。澱んだ静寂とともに霧は掻きまわされ、取り払われた霧のなかから、シダや蔦に絡みつかれた森の木々が姿を見せた。木々の根元には落ち葉が厚く降り積 […]

なお、この星の上に(13)

 山頂の神社の近くに健太郎がはじめて目にする権現滝がある。切り立った褐色の岩壁を、水は垂直に勢いよく落ちている。水しぶきのかかるところに深緑色の苔が生えていた。春先に雨がつづいたせいか、かなりの水量があるようだった。高さ […]

なお、この星の上に(12)

 いつのまにか平坦な尾根に出ていた。かなり標高が高くなっている。日当たりのいい場所でひと休みしていくことになった。各自が思い思いの場所に腰を下ろし、持ってきた水筒の水を飲んだ。日はすでに高く昇り、足元には暖かな木漏れ日が […]

なお、この星の上に(11)

5  山参りの日がやって来た。真っ暗な庭先で、男たちは焚き火を囲んで煙草を吸っている。代表を務める父親の他に、岩男さんと仁多さん、それに源さんという顔ぶれだった。三人とも健太郎が小さいころから知っている人たちだった。とく […]