書き下ろし小説

なお、この星の上に(13)

13  太陽の光が触れるのを感じた。空は端から端まで青い。山の輪郭は鮮明で、近くに生い茂る草木は、葉の一枚一枚が数えられるほどくっきりと見えている。祖父の話を思い出した。何もかもが驚くほどはっきり見える日がある。普段は見 […]

なお、この星の上に(12)

12  長い時間、男たちは難しい顔をして黙り込んでいた。家のなかはひっそりと静まり返っている。庭の動物たちまで息を潜めているみたいだった。卓を囲んでいるのは、仁多さん、岩男さん、源さん、健太郎の父という山参りのメンバーで […]

なお、この星の上に(11)

11  異変が起こったのは、月が天頂に昇りつめ、動物たちの多くが眠りに就いたころだった。森のなかに殺気が漲った。黒い森のなかを稲妻のように伝令が走った。 「気をつけろ! 何かがやって来る」  小鳥たちは藪のなかで目を覚ま […]

なお、この星の上に(10)

10  ゆるやかに傾斜した地面を、シダや熊笹などの下草が覆っていた。山仕事をする人たちが使っていたものだろうか。古い道らしく踏み跡はほとんど消えかかっている。まわりはブナやクヌギなどの原生林だった。このあたりの森は昔から […]

なお、この星の上に(9)

9  木立を吹いてくる風に運ばれて水の匂いがした。川が近いのだろう。太陽の光を遮る頭上の木々の葉が、高くなった夏の日差しを受けて輝いている。 「おまえがいつまでも寝とるけん、もう日があんなに高うなってしもうたが」大きなリ […]

なお、この星の上に(8)

8  遠足が終わると、三年生は個人面談がはじまる。毎日に数人ずつ、担任と今後の進路のことを話し合う。大まかには進学か就職かという選択になる。コースによって二学期からは一部の授業が分かれ、就職コースの者には実務的な授業も用 […]

なお、この星の上に(7)

7  緑が深くなっている。早春を賑わわせた野草、フキやゼンマイ、ツクシ、ワラビなどの季節は終わり、草花は夏へ向かう準備をはじめている。小さな花の蜜を求めて、蝶たちが飛び交っている。そろそろ冬眠から目覚めたクサガメやヒキガ […]

なお、この星の上に(6)

6  山参りの日がやって来た。真っ暗な庭先で、男たちは焚き火を囲んで煙草を吸っている。代表を務める父親の他に、岩男さんと仁多さん、それに源さんという顔ぶれだった。三人とも健太郎が小さいころから知っている人たちだった。とく […]

なお、この星の上に(5)

5  澄みきった透明な水音が森の木々のあいだを流れていく。川底の石はまだ眠りから覚めていない。静まり返った森のなかで、蜘蛛はじっと獲物がやって来るのを待っている。この時期、巣に掛かってくれる虫は少ない。苦労して張りめぐら […]

なお、この星の上に(4)

4  健太郎の一日は牛の乳搾りからはじまる。バケツに搾った生乳は金属製の容器に入れ、リヤカーで近くの集配所に運ぶ。これが毎朝の日課だった。夕食の前にも、もう一度乳搾りが待っている。休みの日でも関係ない。搾乳を怠ると、牛は […]

なお、この星の上に(3)

3   農家の生垣から、馬酔花の白い花が顔を覗かせていた。庭先では梅は鮮やかなピンクの花をつけている。牛がときどき間延びした鳴き声を上げた。春休みに入ったばかりの日曜だった。四人はほとんど喋らずに、大根や白菜が植えられた […]

なお、この星の上に(2)

2  山に動物たちが集まっているらしい。飯場では怪我をした人夫もいるという。不可解なことだ、と村の人たちは思った。どんな動物も好んで人を襲うことはない。まして大勢の男たちが集まっている場所へ、のこのこ出てくる物好きはいな […]