書き下ろし小説

なお、この星の上に(41)

 土曜日になった。午前中の授業が終わると、健太郎は急かれる思いで家に帰り、手早く昼飯を済ませてから避病院へ向かった。アツシは時間を違えず約束の場所に現れた。まるで待ち伏せしていたかのように、崩れかけた石塀にもたれて立って […]

なお、この星の上に(40)

17  火付けの犯人が捕まった。近隣の村に住む若い男で、父親に付き添われて町の警察署に自首してきたという。野犬に牛を襲われた家の一つだった。苦労して育てた牛が、出荷の間際に殺された。それで一家の暮らしが立ち行かなくなった […]

なお、この星の上に(39)

 いつもより遅くまで寝ていたらしい。部屋には朝の光が満ちている。身体全体が激しい運動をしたあとのように熱を帯びていた。長い道のりを駆けてきたような疲労感が残っている。寝巻きの袖をまくると腕に引っかき傷があった。血は赤黒く […]

なお、この星の上に(38)

 拍子木を打ち鳴らし、男たちが暗い夜道を歩いていく。神妙な顔をして歩く者たちの姿が浮かんだ。耳に聞こえるよりも目に見える。少し遅れて「火の用心」という声が聞こえてくる。警戒を呼びかけるにしては長閑な声だった。誰に用心を促 […]

なお、この星の上に(37)

 家に帰ると綾子が開口一番、灰拾いが釈放されたと言った。 「やっぱりガーグーは犯人やなかったな」  どうやら前に自分が主張していたことは忘れているらしい。 「おまえの民主主義は怪しいもんだの」と健太郎は皮肉を言った。 「 […]

なお、この星の上に(36)

16  町では火事が相次いでいた。どれも不審火とみなされていた。おそらく同じ犯人だろう。古い記憶が掘り起こされた。祖母が子どもだったころの話だ。無籍無宿のまま漂泊生活をしている者たちを、村の人たちは「山乞食」と呼んで蔑ん […]

なお、この星の上に(35)

 草の上に踏み跡がついていた。ほとんど人が通らない道が森のほうへ延びている。どこへ向かっているのかわからなかった。この細い道は、少年だけが知っているのかもしれない、と健太郎は思った。目にする光景は一つひとつが見知ったもの […]

なお、この星の上に(34)

 人里離れたところにひっそりと建つ避病院は、まわりの自然と一つになってほとんど野生化しつつあった。隔離されていた病人の多くは、戦争中にどこかへ移送されたというが、村の人たちはそれについて多くを語りたがらなかった。とりわけ […]

なお、この星の上に(33)

15  翌日、午前中で学校が終わると、健太郎は急いで家に帰った。いつもは一緒に帰宅する新吾や武雄には声をかけなかった。靴箱のところで会った豊が、来週からは昭も学校へ来るそうだと言った。豊はそうした情報に聡かった。おそらく […]

なお、この星の上に(32)

 夜が明けるころには雨は上がっていた。日課の乳搾りのために表に出ると、地面の土は濡れてさえいない。不審に思って朝食のときにたずねてみた。 「雨か?」母親は怪訝な顔をした。 「降らんかったか」 「降ってくれるとええのやがな […]

なお、この星の上に(31)

 家に帰ると、妹の綾子が「ガーグー」が捕まったと言った。夕食の時間だった。家族の全員が揃った食卓で、妹は健太郎に向けてその話を持ち出した。昭の家に火をつけた疑いだという。町の警察署から刑事が来て、ガーグーを引っ張っていっ […]

なお、この星の上に(30)

 翌日、学校が終わったあと、健太郎は昭の母親が入院している病院へ行ってみることにした。新吾や武雄は誘わなかった。なんとなく自分一人で行ったほうがいいような気がした。怪我の程度もわからない相手を見舞うことへの遠慮もあった。 […]