なお、この星の上に(40)

17  火付けの犯人が捕まった。近隣の村に住む若い男で、父親に付き添われて町の警察署に自首してきたという。野犬に牛を襲われた家の一つだった。苦労して育てた牛が、出荷の間際に殺された。それで一家の暮らしが立ち行かなくなった […]

小説のために(第七話)

4  谷川俊太郎の詩はおかしい。なんかヘンだ。どうしてこんなものができちゃったんだろう、と思わせる詩がある。作ったというよりはできちゃった。うっかりこの世に誕生してしまった。まるで詩人と言葉が一夜の過ちを犯したかのような […]

小説のために(第六話)

3  谷川俊太郎の詩を読んで感じるのは、ひとことで言うと「嘘くさくない」ということだ。賢しらさを感じさせないというか、殊更に作りましたという痕跡が希薄である。たしかに作ってはいるのだけれど作為を感じさせない。言葉が自然に […]

いまはどういう時代か

 いまはどういう時代かというテーマで、自分がやっていることに即してお話してみたいと思います。ぼくは一応作家、小説家ということになっていますが、作家にしても小説家にしても、職業としてはすでに成り立っていないと思います。   […]

なお、この星の上に(39)

 いつもより遅くまで寝ていたらしい。部屋には朝の光が満ちている。身体全体が激しい運動をしたあとのように熱を帯びていた。長い道のりを駆けてきたような疲労感が残っている。寝巻きの袖をまくると腕に引っかき傷があった。血は赤黒く […]

なお、この星の上に(38)

 拍子木を打ち鳴らし、男たちが暗い夜道を歩いていく。神妙な顔をして歩く者たちの姿が浮かんだ。耳に聞こえるよりも目に見える。少し遅れて「火の用心」という声が聞こえてくる。警戒を呼びかけるにしては長閑な声だった。誰に用心を促 […]

なお、この星の上に(37)

 家に帰ると綾子が開口一番、灰拾いが釈放されたと言った。 「やっぱりガーグーは犯人やなかったな」  どうやら前に自分が主張していたことは忘れているらしい。 「おまえの民主主義は怪しいもんだの」と健太郎は皮肉を言った。 「 […]

なお、この星の上に(36)

16  町では火事が相次いでいた。どれも不審火とみなされていた。おそらく同じ犯人だろう。古い記憶が掘り起こされた。祖母が子どもだったころの話だ。無籍無宿のまま漂泊生活をしている者たちを、村の人たちは「山乞食」と呼んで蔑ん […]

小説のために(第五話)

1  しばらく前から谷川俊太郎の詩集を、気が向いたときにぱらぱらとめくっている。このエッセーでは「眼差し」について書いてきたが、この詩人の作品にも「視線」や「眼差し」について触れたものが多い。集中的に読んでいるわけではな […]

21世紀の自由・平等・友愛

 森崎茂さんとつづけている連続討議が4年目に入った。二週間に一度、熊本と福岡を行ったり来たりして、コーヒーを飲みながら2時間ほど集中的に話をする。男二人、色気のないこと甚だしい。そんなことを丸3年もやっている。お互いよく […]

なお、この星の上に(35)

 草の上に踏み跡がついていた。ほとんど人が通らない道が森のほうへ延びている。どこへ向かっているのかわからなかった。この細い道は、少年だけが知っているのかもしれない、と健太郎は思った。目にする光景は一つひとつが見知ったもの […]