往復書簡『歩く浄土』(1)

第一信・森崎茂様(2017年8月24日)  往復書簡をはじめるにあたり、これまでの流れを少し整理してみたいと思います。ぼくたちの対話も四年目に入り、当初にくらべると、ずいぶん見通しがよくなったことを実感しています。すでに […]

文学のことば・文学のまなざし

 日本では去年(2016年)7月、神奈川県の知的障害者福祉施設に元職員の男が侵入して、刃物で19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせるという事件が起きました。事件から一年が経ち、被害者の父親の一人がインタビューに応じたものが […]

小説のために(第十話)

 ブラインド・ウィリー・マクテルの「Statesboro Blues」を聴く。オールマン・ブラザーズ・バンドで有名な曲だけれど、同じ曲と言われても同じに聞こえない。ウィリー・マクテルの原石に磨きをかけてスリリングなロック […]

小説のために(第九話)

6  ナチスの政権下、ヒトラーをはじめゲーリング、ヒムラーなどの閣僚が、フルトヴェングラーの指揮するベートーヴェンの第九交響曲を聴いて、全員が涙を流すほど感動したという。ゲッペルスが日記に記している。作り話ではないだろう […]

医学の常識・非常識(1)

(1)がん検診をめぐる常識・非常識 【前立腺がん】 ・アメリカで実施された比較試験(約8万人の男子が対象)では、無検査・放置群とPSA(前立腺特異抗原)検診とを比べた結果、検診群の前立腺がん死亡数は減らなかった。(JNC […]

小説のために(第八話)

5  円空仏も木喰仏も、多くの人の手に触られ、つるつるになったり、すり減ったりしているものが多いという。距離を置いて眺めるのではなく、手で触って感触を楽しむ仏像。親しみがあって身近。村人が具合の悪いときに借り出し、枕元に […]

なお、この星の上に(25)

25  久しぶりの帰郷には通夜か葬式の気分が伴った。故郷といっても、帰る家もなければ存命の者もいない。十年ほど前に父が亡くなったあと、一人になった母を呼び寄せて夫婦で面倒をみていた。その母も数年前に施設で亡くなっている。 […]

なお、この星の上に(24)

24  その日も、朝の最初の光が巣のなかに差し込んできた。切り立った崖の岩棚に、木の枝を集めて作った巣のなかで、イヌワシはゆっくり立ち上がると、黒い褐色の身体を朝の光に晒した。首から背にかけての羽毛が赤みを帯びた黄色に輝 […]

なお、この星の上に(23)

23  眠りと目覚めの境界がはっきりしなかった。何度も目覚めては、すぐにまた眠りに落ちた。目覚めは眠りのようであり、眠りのなかにも覚醒があった。そんなことを繰り返しているうちに、自分がどこにいるのかわからなくなった。病院 […]

なお、この星の上に(22)

22  濃い霧のようなものが流れていた。その霧を手で払いながら進んだ。目の前の景色がはっきりしない。森のなかを進んでいるみたいだった。ときどき近くに黒い樹影がぼんやり現れる。太陽は出ていないらしい。夜とも昼ともつかない森 […]