42 あのころ彼はスゴかった

ネコふんじゃった
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 ぼくの高校時代は、一九七四年から七六年になるのだが、この三年間に、スティーヴィー・ワンダーは『インナーヴィジョンズ』『ファースト・フィナーレ』『キー・オブ・ライフ』という三枚のアルバムを作り、いずれもグラミー賞を獲得している。ぼくたちが『試験に出る英単語』や『解放のテクニック』と格闘していたころ、彼はまさに爆発していたのである。

 盲目の天才ソウル・シンガーとしてモータウンからデビューしたとき、彼は十歳そこそこの少年だった。それから十年が経ち、二十歳を過ぎた青年は、自分で作詞・作曲からプロデュースまでをこなす天才ミュージシャンに成長した。ちょうど彼の成長と手を携えるようにして開発が進みつつあったシンセサイザーをメインに、ドラムスやハーモニカなど、ほとんどの楽器を一人で演奏しているけれど、それぞれの曲に盛り込まれているアイデアが豊富なので、アルバムを通して聴いても一つ一つの曲が印象に残る。もちろん全体の統一感、完成度は言うまでもなく、ソウルやロックを土台にして、彼だけの音の世界を作り上げている。

 ここでは、ぼくがいちばん好きな『インナーヴィジョンズ』を取り上げよう。楽曲のクオリティーの高さに加えて、アルバム全体にシャープな勢いがある。それが初夏の風のように心地よい。このアルバムの前にも、『ミュージック・オブ・マインド』や『トーキング・ブック』という素晴らしい作品をつくっているスティーヴィー。あのころの彼は、まさに神がかっていた。(2009年4月)