21 夏休みに離島で聴いたジョージ・ベンソン

ネコふんじゃった
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 大学生になって夏休みに帰省すると、高校時代の友だちとよくキャンプに行った。郷里の街は海に面しており、船で行けるキャンプ場が何箇所かあった。その年はY君と二人で日振島というところへ行くことにした。高速艇で一時間くらいの、かなり本格的な離島である。教育委員会で借りたテントを張り、焚き火をして飯盒でごはんを炊けば、気分はすっかりヘミングウェイなのさ。日が暮れればウィスキーを呑みながら、ギターを片手に西岡恭蔵の「プカプカ」をうたい、すっかり酔っ払ったぼくたちは「告白ごっこ」をすることにした。おれ、じつは人妻と付き合っているんだ。えっ、ほんと! ここだけの話だぜ。うん、それで?
 二日もすると、キャンプ生活にも翳りが出てきた。レトルトカレーとインスタントラーメンの食事には飽きたし、お互いの「告白」も鼻についてきた。二人ともいらいらして、小さなことで刺々しい言葉の応酬になる。なんでおまえなんかとキャンプに来たのかな、と胸のなかで思っている。予定を繰り上げて早めに帰ることで話がまとまり、ぼくたちはテントを片付けて、気持ちの冷え切った夫婦のように、港で帰りの船が出るのを待った。
 Y君が持参したラジカセにテープをセットした。ハービー・メイソンのかっこいいドラムのイントロが聞こえてくる。ジョージ・ベンソンのギターと歌は、海を渡って吹いてくる風のように、どこまでも爽やかだった。街に帰ったら、冷たいビールが呑みたいなと思った。日焼けした背中が、ひりひりしはじめていた。(2007年8月)