8 岡倉天心もびっくり、一期一会の音楽

 その昔、ジャズ・クルセイダーズというバンドがありました。ジュニア・ハイスクール仲間だった四人がバンドを結成したのは一九五二年といいますから、とんでもない昔です。七十年代はじめ、バンド名をシンプルに「クルセイダーズ」と改め、ファンクやR&B色の強いサウンドを打ち出す。さらにフュージョン、ブラコンと飽くなき音楽的変遷をつづけていく彼らが、寝起き声でボサノバをうたっていた今回の主人公であるマイケル君と出会ったのは一九七五年のことでした。ちなみにプロデューサーはトミー・リピューマ、録音がアル・シュミット、編曲がニック・デカロ……これ以上、何を望めばいいのでしょう。
 マイケル君の歌はボソボソとメリハリがなく、けっして巧くはありません。どちらかというと素人っぽい。でも不思議と耳に馴染むのですね。アストラット・ジルベルトなどとも似たテイストです。この抑揚のないヘタウマ歌が、前記の鉄壁な布陣によって繰り出されるサウンドに乗ると、まさにクオリア降臨ともいうべきワン・アンド・オンリーの音世界が立ち現れるのです。心地の良い音。夏の夜にクーラーの利いた部屋で、冷たい果実酒などとともに楽しみたい音楽です。
 タイトルの「アート・オブ・ティー」というのは茶道のことだそうです。このアルバムがデビュー作で、同じスタッフによる二枚目、ニューヨークの腕利きミュージシャンをバックにした三枚目、ジョン・サイモンをプロデューサーに迎えた四枚目と、お楽しみはまだまだつづきます。(2006年8月)