3 ポール・サイモンとフランク・ロイド・ライト

 中学一年生のときに、はじめてサイモン&ガーファンクルのシングルを買った。「コンドルは飛んで行く」だったと思う。いや、「バイ・バイ・ラブ」だったかな。どちらかのB面が「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」で、ぼくはこの曲がすっかり気に入ってしまった。いまでの彼らの曲のなかで、いちばん好きかもしれない。
 ロイド氏が、帝国ホテルなどを設計した高名な建築家であると知ったのは、ずっと後のことで、最初は明かりのことだと思っていた。さようなら、フランク・ロイドの灯火……。曲は生ギターの伴奏で静かにはじまり、途中からストリングスとコンガが入ってくる。フルートの間奏が洒落ている。目をつぶって聴いているとほら、遠ざかっていく船のデッキから、フランク・ロイドの桟橋にともる薄暗い明かりを見送っているような気分になりませんか?
 とにかくまあ、そんな経緯があったので、新しい家に引っ越したときに、何かライト氏のデザインした家具を入れたいと思った。チェアやスタンドライトや、欲しいものは幾つかあったけれど、実用性を考えてコーヒーテーブルにした。重厚でありながら洗練されていて、なかなかいい感じだ。
 今日は朝から灰色の雲が垂れ込め、ときどき雪まじりの雨が降っている。サイモン&ガーファンクルを聴くには最適の日だ。さっきスターバックスから買ってきた豆を挽いて、熱いコーヒーを淹れよう。リビングの窓から、埋め立てを逃れた運河のような海が見える。靄の向こうに、幻のフランク・ロイドの灯火が見える。(2006年3月)