29 ヴァン・モリソンに駄作はない

 たぶん、ないと思う。そういうことにしておこう。駄作はない、と断言できないのは、三十枚以上出ている彼のアルバムを、すべて聴いたわけではないから。でも、半分くらいは聴いている。それで言えることは、どのアルバムも、やりたいこと、歌いたいことがはっきりしているということ。惰性でなんとなく作っているものは一枚もない。このあたりが「駄作はない」という世評にもつながっているのだろう。
 とはいえ、十分や十五分という長い曲がごろりと入っていたり、ほとんど詩の朗読みたいな曲があったりと、はじめて聴く人にはとっつきにくい作品があるのも確か。初期の『ムーン・ダンス』や、円熟期の『アヴァロン・サンセット』、『エンライトメント』あたりから入るのが無難かもしれない。
 今回取り上げたアルバムが発表されたのは一九七九年、彼のキャリアでは中期と言っていいと思う。ソウルやゴスペルなどのブラック・ミュージック、それにジャズの要素を加えて曲を作っていたころを初期とすれば、このころは、彼がアイルランドやケルトの民謡を積極的に取り入れていく時期にあたっている。そのブレンドの加減がとてもいい。
 ヴォーカリストとして圧倒的な力量をもつ人なので、見落とされがちなのが、コンポーザーとしての資質かもしれない。このアルバムも、とくに前半は、ポップな曲が並んでいる。どんなにポップでも、彼のつくる曲には風格がある。メロディの美しい曲も、甘く流れる感じにはならない。そこが素晴らしい。(2008年4月)