15 プロレスラーじゃありません

 深夜、人気のない裏通りでけっして出会いたくないミュージシャン、それがアーロン・ネヴィルだ。不幸にして出会ってしまったら、目を合わさないようにして、できるだけ素早く通り過ぎてしまいたい相手、それがアーロン・ネヴィルだ。いくらにっこり笑いかけてきても、ぼくはだまされない。あんた、絶対に人殺してる!
 野蛮な風体にスイートな歌声。ボンレスハムみたいなぶっとい腕にはジーザスの刺青。それが本日ご紹介する、アーロン兄貴です。別に、ぼくの兄ではないのですが、つい「兄貴」と呼んじゃいたくなります。まずは一曲目、ランディ・ニューマンの名曲「ルイジアナ1927」をお聞きください。兄貴の甘い歌声に、身も心もとろけてしまいそうです。とどめは最後の「アヴェ・マリア」。昔、CMに使われていたこともあるので、お聞きおぼえのある方もいらっしゃるかと思います。
 天使の歌声と天才的な節回し。とにかくアーロン兄貴の場合、いい曲を、いいアレンジと演奏をバックにうたわせれば、それでいいのです。なんて簡単、とぼくなどは思うのですが、兄貴のアルバムが全部すばらしいかというと、さにあらず。選曲がいまいちだったり、アレンジがごてごてし過ぎていたり。その点、これは限りなく正解に近い名盤です。
 プロデュースはリンダ・ロンシュタット。意外です。ちょっと見直しちゃいました。兄貴の甘い声を、ふくよかな暖かみのある音でとった、ジョージ・マッセンバーグの録音も見事。(2007年3月)