1 冬の夜はビル・エヴァンスを聴きながら

ムーンビーンズ 朝は六時から七時のあいだに起きて、ヨーグルトと季節の果物と豆乳の朝食、コーヒーを淹れ、まずはCDを一枚。これで心身の状態がわかる。コーヒーが美味しく、聴きたいCDがすぐに見つかる日は調子がいい。八時ごろから仕事をはじめ、十時に緑茶を淹れて一休み。もうひとがんばりして、十二時には切り上げる……というのが一日の骨子。一年三百六十五日、ほとんど変わらない。
 午前中の執筆の時間以外、たいてい何がしかの音楽を聴いている。ロックとジャズがそれぞれ四、クラシックが二といったところか。積極的に聴くというよりも、聞き流していることが多い。だから家のあちこち、リビングやダイニングや書斎や寝室や、できれば風呂やトイレにも、音楽を再生できる装置が欲しい。私にとって音楽は、過去や未来から、様々な匂いを運んできてくれる風のようなものだから。
 ビル・エヴァンスの好きな作品はたくさんあるけれど、最近は『ムーン・ビームス』をよく聴いている。いわゆるバラード集で、似たような曲がつづく。まるで誰かの日常のようだ。気にせずに、リピートで再生しよう。ジャスミン茶など淹れて、読書をなさるのもよろしいかと。そのうち耳に残るフレーズが出てくる。「あっ、これ好きだな」という曲が一つ、二つと増えていく。とらえどころのなかった一枚のCDに、少しずつ目鼻立ちがついてくる。
 甘いバラードでも、エヴァンスさんは常套的な弾き方をしないので、いつまでも飽きない。そんなふうに単調な毎日とも、代わり映えのしない自分とも、飽きずに付き合っていきたい。(2006年1月)