第2回 紛争の現場から「戦争」について考えてみよう。

 今回のテーマは戦争です。ええ、なぜ? と思っている人もいるでしょうね。一応、文芸創作のコースなのに? そうです。文芸創作、つまり「文学」の講座だからこそ、戦争について考える必要があるのです。文学とは何よりも人間について考えるものです。人間の未知の可能性、人間はどうあるべきなのか。それが文学のいちばん大きなテーマです。
 ところで人間と戦争は切っても切れない関係にあります。過去と現在も、人間はずっと戦争をしつづけています。今後も戦争がなくなる様子はありません。それどころかますますエスカレートして、世界中がテロや紛争に巻き込まれていくのではないか、という暗い予感にとらわれます。
 このような未来予測は変えることができます。これまでのように人間をイメージするかぎり、あまり明るい未来は思い描けません。人間を別様にイメージすればいいのです。人間を「殺し合わない」ものとして構想すればいい。そのような人間はまだ出現(エマージ)していません。人間を創発(エマージェンス)する必要があります。それが文学の仕事だと思います。壮大な歩みであり、前途多難な作業ですが、少しずつ考えていきましょう。
 まずは現在、世界の紛争の現場がどうなっているのか、ということを簡単に見てみます。講義の内容は、伊勢崎賢治さんという人の本(『本当の戦争の話をしよう』『新国防論』)と、インターネット上に公開されている講演などを参考にしました。伊勢崎さんは国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンで紛争処理を指揮してきた人です。

1 ルワンダの悲劇
 100日間で100万人が犠牲になったと言われるルワンダの悲劇は、なぜ起こったのでしょう? この出来事をきっかけに、国連のなかに「保護する責任」という考え方が生まれます。ある国家が自国民の保護の義務を果たす能力や意思がない場合、国際社会全体がその国家に代わって国民を「保護する責任」を負うべきである、ということです。つまり場合によっては戦争をすることが、PKOの任務になっていきます。こうした国連PKOは変貌について、あなたはどう思いますか?

2 シエラレオネの場合
 10歳くらいでゲリラに親を殺され、ジャングルに拉致されて殺人ロボットに仕立て上げられる子どもたち。彼らはただ「被害者」ということでいいのでしょうか。殺人をはじめとする数々の残虐行為、彼らのやったことをどう考えればいいのでしょう? ユニセフや人権団体など、国際社会に支配的な考え方には不備があるように思います。できるだけいろんな視点から考えてみましょう。もし知人にそういう人がいたら、あなたならどうしますか?

3 日本の安全保障について
 ぼくの考えをお話します。まずは概念整理から。

①個別的自衛権
 自国が攻撃を受けたら反撃できる。
②集団的安全保障(国連的措置=PKO)
 ある国に降りかかった脅威を、加盟国全体の脅威とみなす。その脅威に共感しなくても、契約の上での義務なので、なんらかの貢献をしなくてはならない。
③集団的自衛権
 同盟関係にある他国が攻撃されたときに反撃する。国連的措置までの暫定的行使として認められている。

 ①→②→③、この順番で考えていくことが大切だと思います。いま本当に問題なのは②です。ルワンダの悲劇で見たように、「住民の保護のために紛争の当事者になる」こと、言い換えれば、「交戦主体として積極的に戦え」というものになっているPKOに、現状のままで自衛隊を派遣することが問題なのです。選択肢はつぎの二つしかありません。

①自衛隊をPKOに派遣しつづけるために、憲法を改正して自衛隊を正式な軍隊にする。
②違憲状態を解消するために、自衛隊をPKOに送ることをやめる。

 いずれにしても、当面は自衛隊を海外へ派遣してはならない。その上で、①と②について徹底して議論する。これが本筋です。改憲・護憲をめぐる議論は、この点をめぐってなされるべきですし、集団的自衛権をめぐる問題は、さらにその先にあります。肝心な過程をすっ飛ばしているから、議論は噛み合わないし、現実を無視した空理空論の応酬になっています。それが日本の政治、および世論の現状です。

4 グローバル・テロリズムの時代
 現在、最優先の脅威として位置づけられるのはグローバル・テロリズムです。この現実を踏まえて、日本が直面している危機について考えてみます。つぎの二点を取り上げてみます。
(1)「中国の脅威」を煽ることによって生まれる脅威。
(2)国防上の原発の問題。

【次回の宿題】
 トマ・ピケティの『21世紀の資本主義』をテキストにして、「格差社会」について考えます。ピケティについて調べてきてください。彼はどういうことを証明したのか。どうしろと言っているのか。ちなみに『21世紀の資本主義』を読む必要はありません。分厚い本ですし、あまり面白くありませんからね。グーグル検索で充分です。

 2016.5.11(九州産業大学講義)