ザ・ベスト・オブ・ビートルズ

 あるミュージシャンやバンドを好きになると、自分なりのベストものをつくりたくなる。最初はカセットテープで、その後はMDで。これまで何度も、ビートルズのベスト10やベスト20を選ぼうとして、そのたびに挫折してきた。これを選ぶと、あれが入らない。どうしても10曲におさまらずに14曲、15曲と増えてしまう。それを入れるなら、これも……となって収拾がつかなくなる。それほどビートルズの213曲、どれも捨てがたい。聴き方によって、みんな名曲に思えてくる。
 でも、今回はなんとしても10曲を選びたい。どうしていまビートルズなのか? なぜ? それはぼくが訊きたい。たんなる気まぐれ。このところ日本人の死生観みたいなことを考えていて、いい加減に頭が疲れてきた。ここらでちょっと息抜きを……そんな気分だ。
 ぼくがいちばんビートルズを熱心に聴いていたのは、ジョンが亡くなって10年目くらい。マーク・ルウィソンの『コンプリート・レコーディング・センション』などが出て、分析的にビートルズを聴き直そうという気運が、ぼくのなかで強まっていたころだ。あのころは思い入れが強過ぎたのかもしれない。だからかえって曲を絞り込むことができなかった。いまはビートルズにたいしてもジョンにたいしても、やや距離がある。だからチャンスだ!
 まず、アルバムごとに好きな曲をあげていく。

1.『プリーズ・プリーズ・ミー』(There’s A Place)
2.『ウィズ・ザ・ビートルズ』(All My Loving , Please Mr. Postman , Not A Second Time)
3.『ハードデイズ・ナイト』(Any Time At All , Things We Said Today , I’ll Be Back)
4.『フォー・セイル』(No Reply)
5.『ヘルプ』(Help , It’s Only Love , I’ve Just Seen A Face)
6.『ラバー・ソウル』(Michelle , Girl , In My Life)
7.『リヴォルバー』(Here,There And Everywhere , And Your Bird Can Sing , For No One)
8.『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(Fixing A Hole , A Day In The Life)
9.『マジカル・ミステリー・ツアー』(Your Mother Should Know , Strawberry Fields Forever)
10.『イエロー・サブマリン』(Hey Bulldog)
11.『ホワイト・アルバム』(While My Guitar Gently Weeps , I Will , Julia)
12.『レット・イット・ビー』(Across The Universe)
13.『アビー・ロード』(Some Thing , Here Come The Sun)
14.『パスト・マスターズVol.1』(This Boy , Yes It Is)
15.『パスト・マスターズVol.2』(Rain , Don’t Let Me Down)

 フォーセール
 どうです、みなさん。素晴らしいじゃありませんか! 曲名を見て、メロディを思い浮かべるだけで幸せな気分になってくる。でも、問題はこれからだ。ただいま32曲。さすがにどれも捨てがたい。赤盤、青盤ということにしてもらえんだろうか。あと2曲削って、前期16曲、後期14曲ということで。LP二枚に、ちょうど収まるはず。ダメ?
 かつてのぼくは、そうやって幾度も逃げを打ってきた。でも、今回はそうはいかない。10曲でなければ意味がないのだ。これはぼくが自分に課した試練だ。それがどんな意味をもつのかは、ぼくにもわからない。ヨブにもわからなかったはずだ。試練とは、そういうもの。
ヘルプ
 とにかく削れるだけ削ってみよう。まず「There’s A Place」は捨てがたい。初期の傑作だ。すると「Not A Second Time」に消えてもらうか。タイトル通り、二匹目のドジョウを狙ったふしがある。「Things We Said Today」も、ちょっと邦題(「今日の誓い」)が辛気臭いから消えてもらおう。ポールに罪はないのだけれど。「It’s Only Love」と「I’ve Just Seen A Face」は、どっちも大好きな曲だけれど、10曲のなかに入れるにはちょっと弱い。涙を呑んでもらおう。「Girl」を削るのは、ぼくも辛い。でも「Michelle」と比べると、やはり落とさざるをえないだろう。「And Your Bird Can Sing」と「For No One」も、やはりちょっと弱いよね。「Fixing A Hole」と「A Day In The Life」にも、この際、お引き取り願おう。『サージェント・ペパーズ』からは一曲も入らないことになるが、それでいいのだ。現実は厳しいのである。「Your Mother Should Know」と「Hey Bulldog」も、ここで退場。
サージェント
 おお、けっこういけそうだ。「I Will」と「Julia」は、「Michelle」と「Girl」につづいてポールとジョンの対決。ここでも軍配はポールに上がる。こういう何気ない曲を作らせると、ポールって本当に天才的だ。つづく「Some Thing」と「Here Come The Sun」はジョージの名曲対決。好みの問題だろうけど、ぼくは「Some Thing」をとる。『パスト・マスターズ』の4曲では、「This Boy」を残す。「Rain」と「Don’t Let Me Down」はともにジョンの作品で、若いころは大好きだった。いま聴くと、曲としてやや強引なところがある。彼のヴォーカルに支えられているところ大と見た。「Yes It Is」は「This Boy」と同様、ポール、ジョン、ジョージによる三声のコーラスが聴ける。この輝くばかりのコーラスは、初期ビートルズの大きな魅力だった。初々しさにこだわれば、「This Boy」か。映画での使われ方(リンゴが一人で川のほとりを歩くシーン)も良かったしね。
 これで何曲だ? 「There’s A Place」「All My Loving」「Please Mr. Postman」「Any Time At All」「I’ll Be Back」「No Reply」「Help」「Michelle」「In My Life」「Here,There And Everywhere」「Strawberry Fields Forever」「While My Guitar Gently Weeps」「I Will」「Across The Universe」「Some Thing」「This Boy」で16曲。LP一枚分まできたぞ。あと少しだ。
 ここで「I’ll Be Back」が落ちる。「In My Life」がいるからいいでしょう。ということは、「Michelle」も落ちる。このタイプの曲では、なんといっても「Here,There And Everywhere」が、ポールの輝かしい才能を証明している。「I Will」もがんばった。でも、ここでさようなら。さりげない小品。ぼくはきみのことをずっと忘れないだろう。
ホワイト
 ここで重大な発表があります。「Strawberry Fields Forever」を落とします。え~!(野次・怒号)……みなさん、ご静粛に。気持ちはわかります。ぼくだってひところは、これぞビートルズの最高傑作とまで思っていたくらいです。でも冷静に、もう一度聴いてみましょう。どうです?ジョンの個性が、やや強く出過ぎている気がしませんか。それを煩く感じる瞬間があるのです。いまのぼくは、「No Reply」の、少し情けないジョンを愛します。また同じモチーフの作品としては、すでに「In My Life」があります。この人生のさりげないたたずまいに比べると、苺には作為を感じます。以上、弁明終わり。「Please Mr. Postman」、あなた、なぜ、そこにいるのか。カバーではないですか。でも、いいのです。ここには、ぼくのいちばん好きなビートルズがある。あと2曲。「All My Loving」を外そう。ここまで来ると、呑気すぎる気がしてきた。あと1曲。「No Reply」を外そう。いくらなんでも情けなさ過ぎるだろう、ジョン!
アビーロード
 ジャーン! 発表します。潔くも、天晴れな10曲。曲順も、これでお願いします。おっと、大事なことを言い忘れるところだった。「While My Guitar Gently Weeps」は、もちろんクラプトンがギターを弾いている『ホワイト・アルバム』もいいが、ジョージがアコースティック・ギター一本でうたう、きわめて美しいスタジオ・デモが残されている(『アンソロジー』Vol.3)。ぼくにとってはジョージの白鳥の歌である。「While My Guitar Gently Weeps」は、こちらのヴァージョンをとりたいと思う。それから「Across The Universe」は、やっぱりフィル・スペクターが手を加える前のやつ(バード・バージョン)で。

① Any Time At All
② This Boy
③ There’s A Place
④ Please Mr. Postman
⑤ Help
⑥ Here,There And Everywhere
⑦ In My Life
⑧ While My Guitar Gently Weeps
⑨ Some Thing
⑩ Across The Universe
                                     (2012年10月)